緊急事態に対応するため国民的論議の推進を
共同代表 横倉義武(日本医師会名誉会長)
現在、我が国のみならず世界中の人々は、新型コロナウィルス感染症によるパンデミックによって大きな災厄に見舞われています。一日も早い鎮静化が望まれますが、地球の温暖化、開発の進行による自然破壊等により、新たなパンデミックを引き起こす新しい感染症の発生も危惧されています。
また、わが国は10年前に東日本大震災に襲われたように、多くの国民の命が奪われる大規模自然災害を経験してきましたが、現在も東南海・南海トラフで惹き起こされる大地震、首都直下地震、富士山の噴火等大きな自然災害に襲われる恐れがあります。
このような緊急時において国民の生命と生活を守るため、今こそ、従来の垣根を超え広く各界が連帯して「感染症と自然災害に強い社会」をつくることが求められています。
新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて、すでに各界より有益な感染症対策に関する「提言書」や「要望書」が相次ぎ提案されています。
①まず、医療提供体制維持のための支援については、医師会からも数回に亘り、病院や医療従事者に対する支援を国にお願いしました。全国保健所長会からは、新型コロナ感染症が指定感染症と指定されて以降、保健所はすべての感染者に対応しなければならない危機的状況が続いており、保健所の負担軽減のために、国には対処方針を変えて頂きたい、との要望が出されました。また、町村議長会からは、地域医療提供体制が維持できるよう、国・都道府県の連携による広域的な支援体制の構築に取り組むべきである、との提言が行われています。
コロナ対策については、通常医療からコロナ対応へ柔軟に切り替えることができない医療提供体制の構造的な問題が顕在化致しました。
②ついで、海外からの入国される方への水際対策ですが、現在、変異型の新型コロナウィルスを巡る水際対策が課題に浮上しています。入国後の待機要請に従わない人は一日300人に及びます。入国者の管理を強化するよう求める声は高まっています。
③コロナ危機により、我が国のデジタル化の遅れが明らかになってきました。国は様々な補助金・助成金・給付金など、国民の生活を維持するために制度化しましたが、国民の手元に届くのに時間がかかっています。
④今後の未知なる感染症に対する備えについても、必ず次のパンデミックが発生すると認識して、国家レベルでの危機管理を一元化し、非常時には総合的な対策が実行できる司令塔的な機能の構築を推し進めるべきです。感染症対策は、公衆衛生上の重要な国家戦略であり、ワクチン・治療薬は安全保障の観点から国の戦略物資と位置づけ、国内製造への転換促進や備蓄を行っていくべきです。またその先には、地域レベルで国民の命を守る、かかりつけ医の存在が欠かせません。
非常事態の課題に強く、早期の事態収束・復旧を可能とする社会を創りあげるため、行政や国民各層にわたる日本社会全体の意識改革が求められています。私たちは、感染症や自然災害に強い社会を目指し、単に対処方法についての改善策を論ずるだけでなく、対処を妨げている真の原因を浮き彫りにし、その抜本的な解決策を論じていくべきだと考えます。
必要なのは、緊急時についての関係法規の見直しではないかと考えます。昨年「インフルエンザ特措法」「感染症予防法」等が改正されましたが、その実行にあたっては、国民の一人一人の意識改革や法的根拠が明確に示されないと実行力を伴いません。
「平時」から「緊急時」へ、国民を守る立場から、ルールの切り替え要件の法的な整備、それらの根拠規定としての憲法における緊急事態条項新設の検討が必要かなど、建設的な論議に取り組むことを提唱します。また各界の皆様と力を合わせて、幅広い国民運動を推進するものです。皆様方の一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。
令和3年6月8日
(ニューレジリエンスフォーラム設立総会より)