第5次提言
『防災庁の設置に必要な視点』
令和7年6月13日
感染症と自然災害に強い社会を
ニュー レジリエンス フォーラム
会長 三村明夫
(日本製鉄株式会社名誉会長)
ニューレジリエンスフォーラムは、これまで感染症と自然災害に対して内閣官房に司令塔機能を付置することを提言し、前者については内閣感染症危機管理統括庁の設置をもって実現されました。後者の自然災害については石破内閣が防災庁を設置することを公約し、現在、その検討が進められています。
防災庁には、『社会現象の相転移』(たとえば、地震や豪雨により電力や道路などのインフラの機能が低下することでまったく別の性質の被害を生む現象)を事前に発見し、被害を最小限に抑える事前防災を実現するための組織となることが求められます。
そこで本フォーラムでは、防災庁には危機管理に関する専門性の高い組織設計と機能付与が必要であるとして、次の提言を行うものです。
1. 事前防災と発災後の復旧・復興に特化した制度設計を
現在、災害対応は、国と自治体がそれぞれ行う防災計画の策定や物資の備蓄といった「事前防災」、発災後の人命救助、医療・福祉提供などを行う「初動対応」、そして「復旧・復興」の三つの軸で行われている。
発災後は、内閣官房が司令塔となり実動部隊を持つ防衛省、警察庁、消防庁、厚生労働省、国土交通省、気象庁などが各々の役割を担っているが、防災庁の設置に伴って初動とその後の活動における指揮系統の輻輳は避けなければならない。一方で、復興のフェーズにおいて、現在の復興庁は東日本大震災からの復興を目的に時限的に設置されている組織であって、これまでの知見を後世に生かす仕組みにはなっていない。
このような状況を踏まえ、三つの軸のうちの初動対応については防災庁設置後も内閣官房が引き続き政府内の総合調整の役割を担うことが適切であり、防災庁については「事前防災」と「復旧・復興」に特化した機能を持つ組織――「防災復興庁」とすることを提案する。
これにより、新組織の目的・役割を明確にし、専門性のある職員の経験を蓄積することで、次なる大災害に迅速に対応することができる。
2. 防災大学校の創設と小中高校での防災教育の充実・強化
災害対応の経験値を積み重ねていく上で専門的人材の育成は必須である。そこで、防衛省・自衛隊は防衛大学校、海上保安庁は海上保安大学校、気象庁は気象大学校を所管すると同様、防災庁は防災大学校を創設し、これを所管・運用することを提言したい。
防災大学校には、防災庁の中核となる専門性の高い幹部職員の養成のほか、災害時の第一次対応を担う基礎自治体職員の防災力強化や、防災政策、訓練・研修に関するシンクタンク機能、海外からの研修生受け入れなどの任務を持たせる。
また、各小中高校において教育委員会の関与のもとに、体系的な防災知識の習得や災害時の判断・行動能力を身に付ける時間を確保し、小中高校の段階ごとに防災教育の質的向上を図るべきである。加えて、保育士、教員が現場において必要な防災知識と実技(救命・救急講習等)を習得できるよう、教職課程等において防災科目を必修化するべきである。
3. 共助の強化と官民連携
国と地方、官と民が担う役割を明確にした上で、官民連携で支援していく態勢(運送・建設・警備等の関係団体、医療・福祉関係団体、ボランティア団体などとの連携)づくりを構築しておかなければならない。
たとえば、平時において孤独死が増えているのは、地域の「共助」システムが脆弱化あるいは崩壊していることが一因と考えられる。したがって災害関連死を防ぐためには、迅速な避難所の設置と運営、生活環境の維持が求められ、これらは避難所のある地域ごとの共助なくしては効果が期待できない。
ゆえに、公助に依存しない「共助態勢の強化」を災害現場の環境改善の主軸とすべきであり、防災庁は、地方自治体と各業界団体が発災後の初動連携を円滑にできるよう両者を結びつけること、さらに自主防災組織の実体に鑑み、その活動の活性化を図るため、自治会単位での人材交流を復活させる(住民共助組織の形成)など、「平時」からの世代を超えた地域社会の環境整備もその任務とすべきである。