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ニューレジリエンスフォーラム第2次提言 「平時」から「緊急時」対応への円滑な移行と緊急財政支援を

お知らせ

第2次提言
「平時」から「緊急時」対応への円滑な移行と緊急財政支援を

令和4年4月26日
感染症と自然災害に強い社会を
ニュー レジリエンス フォーラム

共同代表

河田惠昭
(関西大学特別任命教授・社会安全研究センター長)
松尾新吾
(九州経済連合会名誉会長)
横倉義武
(日本医師会名誉会長)

 第1次提言では「『緊急時』の医療提供体制と法制度の整備を」と題して、医療分野を中心に以下の5点を提言した。

1.医療及び医薬品の提供体制の整備と医療従事者の確保
2.医療機関等・医療従事者への迅速な経済的支援
3.海外からの感染流入を防ぐ水際対策の強化
4.国家安全保障としての感染症対策の戦略構築
5.「平時」から「緊急時」への円滑な転換を図るための関係法令の整備

 以上を踏まえ本提言では、「感染症と自然災害に強い社会」を作り、「国民の命と生活を守る」ために何をすべきか、過去の大規模自然災害や今回の新型コロナウイルスのパンデミックを振り返り、医療だけでなく防災の分野まで含めて現行の法律上の問題点を指摘しつつ、その解決について提案する。

1. 感染症や自然災害対策における現行法上の問題

(1) 平成7年の阪神・淡路大震災や平成23年の東日本大震災において、以下に述べるような法律上の様々な問題や限界が表面化した。

  • ①災害対策基本法(以下、災対法)で定めた「災害緊急事態の布告」(105条)を発令しなかった。結果、「買占め禁止」、「物価統制」、「金銭債務の支払延期」(109条)などの緊急措置をとることができず、灯油・ガソリン等の買い占めが問題となった。
  • ②災対法には応急措置の妨げとなる工作物等の除去に関する規定(64条2項)がありながら、憲法の保障する「財産権」と衝突することとなり、救命活動や緊急道路の敷設などのための瓦礫や倒壊家屋等の撤去作業に支障が生じた。
  • ③災対法上は可能である原発被災地への燃料等の輸送に対して、輸送関係業者への従事命令(71条)を発令することができなかった。

(2) また、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際しては、法律の不備等により次のような問題を残すことになった。

  • ①新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)で定められた医薬品や医療機器の緊急生産や供給の措置(47条)を命令として出せなかった。
  • ②感染症法の改正によって、病床確保の要請や勧告は可能となったが(16条の2)、強制力に欠け、また、医療従事者の確保を働きかける組織が存在せず、指揮系統や法制度も未整備のままである。
  • ③特措法上、緊急事態宣言下での臨時病院の開設は可能であるが(31条の2)、医療法、建築基準法、消防法等の種々の法律の規制上、迅速な対応ができなかった。
  • ④施設・在宅を問わず、介護・障害者・子育てなどの福祉サービスにおける感染予防や検査体制、福祉従事者の確保等、事業継続に向けた支援施策が遅滞し、社会の中の脆弱部分であることが明らかとなった。

2. 豊かな社会経済活動の回復と維持のための課題

 感染症や自然災害に見舞われた際の社会経済活動には以下の問題があり、経済の落ち込みを少なくし、その期間を短くするための方策が求められる。

  • ①初動期には自治体や民間事業者等への緊急財政支援が遅れ、また、資金等の給付に際しては手続きが煩雑を極めていたことから、基金設置などを含む十分な資金を迅速に支給できるための法律の整備と、事務処理のデジタル化促進をはかることが必要である。
  • ②社会インフラや企業等のサプライチェーンの維持に大きな懸念が生じた。そのため、感染症や自然災害を想定したBCP(事業継続計画)の策定に対して、事業者に平時から災害時に備えるためのインセンティブ(動機付け)を与え、特に、独自にBCPの策定をできない中小企業等に対しては、行政が継続的に支援をすることが必要である。
  • ③社会経済活動の維持には、公共性の高い福祉事業者等に対しても、迅速な人的、物的支援を確保する事業継続支援が必要である。
  • ④経済安全保障の観点から、「平時」から医薬品、医療資機材の国内生産と備蓄体制を整備し、「緊急時」に国が医療関連企業に対して特別生産や流通管理を命令できるようにし、併せて補償措置を講ずる必要がある。

3. 「平時」から「緊急時」対応への切り替え

 感染症の蔓延や大規模自然災害のような緊急事態において、国民の命と健康を守り、経済活動を迅速に回復、維持するためには、法制上も「平時」から「緊急時」の態勢に切り替える必要がある。そのためには、内閣による「緊急事態宣言」の発令を憲法上に規定し、「緊急時」の根拠とすることが求められる。

  • ①憲法上に規定された「緊急事態宣言」に基づき、災対法、感染症法、医療法、補助金等適正化法、行政手続法、消防法、薬機法、建築基準法等のすべての関係法令が、「平時」から「緊急時」のルールへと移行できるよう法整備をする。即ち、「緊急事態宣言」の発令によって、行政担当者が「違憲の疑い」に躊躇せず、法律に定められた緊急措置を行えるようにする。
  • ②憲法上、「緊急事態宣言」が発令されたにもかかわらず、国会による予算措置の議決を待つ暇がないときは、内閣が「緊急財政支出」を行い、臨機応変に支出できるようにする。ただし、内閣は、後日に速やかに国会の承認を求めなければならない。
  • ③一方で、承認後は、内閣による「緊急事態の終了宣言」もしくは国会による「緊急事態宣言の廃止決議」によって失効し、「緊急時」のルールは「平時」のルールに復帰するものとする。

 

 

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