〈「レジリエンス(Resilience)」とは、危機に対処する社会の回復の意味です〉

ニューレジリエンスフォーラム第3次提言 国民の命と生活を守るため緊急事態に即応できる法整備を

お知らせ

第3次提言
国民の命と生活を守るため緊急事態に即応できる法整備を

令和5年7月24日
感染症と自然災害に強い社会を
ニュー レジリエンス フォーラム

共同代表

河田惠昭
(関西大学特別任命教授・社会安全研究センター長)
松尾新吾
(九州経済連合会名誉会長)
横倉義武
(日本医師会名誉会長)

 ニュー レジリエンス フォーラムでは感染症と自然災害に強い社会を形成していくことを目指し、令和3年6月の設立以来、同年9月と令和4年4月の二度にわたる提言を行いました。
 提言では特に、法制上の「平時」から「緊急時」へのスイッチの切り替えの必要性を提示し、政府に対して迅速果敢な医療提供や緊急財政支援を可能とするよう求めてきました。令和5年2月の本フォーラムの全国大会において岸田総理も言及されたように、第1次提言の内容のいくつかはその後の政府の政策に反映されています。例えば、第1次提言で「国民の健康危機管理のための保健インテリジェンス、全体戦略の立案等の司令塔組織の創設」を示したところ、令和5年通常国会において、内閣に内閣感染症危機管理統括庁が、厚生労働省の管轄下に国立健康危機管理研究機構が設置されるに至りました。
 本フォーラム企画委員会では、次にどのような課題に臨むべきか、どのようなアクションを起こすべきかについて、更なる議論と関係する団体や政府機関からのヒアリングを積み重ね、その内容を第3次提言として示します。

 

1、機能する危機管理の司令塔を

 この3年あまりの新型コロナ感染症対応では、政府の感染対策と経済活動における政策決定の過程が不明確であったこと、政策意図が国民に伝えきれなかったことなどのリスクコミュニケーションのあり方が問題となった。危機時においては国と自治体や医療従事者が良好な関係を築くことが求められる。
 この観点から、内閣感染症危機管理統括庁の運用上における指揮系統や意思決定プロセス、広報担当者等を、さまざまなメディア媒体を通して正しく可視化することを求めたい。
 現在の内閣官房の事態対処・危機管理体制は、発災時の初動対応段階において組織横断的な総合調整を行うこととなっているが、国民の健康危機に対しては、感染症のみならず自然災害やCBRNE※テロ、安全保障上の不測事態など、災害や事故等の種別にかかわらず中長期にわたって医療・介護・福祉界の支援が必要である。
 これ故、同庁を複合災害にも対応できる、各部署や実力組織を統合指揮する権限を持ったオールハザード型の「健康危機全般を管理する司令塔」へと発展させることを提言したい。

※CBRNE C(化学) B(生物) R(放射能) N(核) E(爆発)

 

2、各種民間団体の活用促進を

 東日本大震災では地元の建設業協会が迅速な瓦礫処理による交通網の確保のためにその人的・物的資源を投入し、熊本地震では全日本トラック協会が物資輸送と配送システムの確立に尽力した。この際、建設業協会は、本来の業務以外においても仮埋葬や廃棄物処理などの支援活動を行ったにもかかわらず公務災害補償が得られなかった。また、政府調達や被災地近隣自治体からの緊急物資供給網を構築するための広域流通拠点の事前設置等が必要であることも明らかとなった。
 これらのことから国は、建設業や流通業などの災害対策基本法上の指定地方公共機関が危機管理産業としての役を担っているとの認識を持ち、これを含む産業諸団体が安心して被災地で活動できるための必要な法整備と補償制度の充実を行うべきである。
 また、産業団体、商工会などの地域経済団体ならびに防災団体、医療機関や医療・介護・福祉関係団体による被災地支援は、大規模災害時の初期対応から復旧・復興までの大きな力となることから、多種にわたるこれら団体の経験と知見を統合的に運用する枠組みを国が主導して作り上げることを提言する。
 さらに、感染症の蔓延や自然災害時において経済活動の迅速な回復を図るためには、中小企業の経営基盤を強靭化しておくことが欠かせないことから、小規模事業者支援法における事業継続力強化支援計画を推進するための平時からの財政措置を求める。

3、緊急事態に即応できる法整備を

 第1次および第2次提言では、感染症の蔓延や大規模自然災害時において、国民の命と健康を守り、経済活動を迅速に回復・維持するため、さまざまな法律の中で「平時」から「緊急時」へと切り替える仕組みの必要性を示した。
 また、東日本大震災や新型コロナ感染症での経験を踏まえた本フォーラムでの議論を通して、緊急事態において国民の命と健康を守るための関係機関の初動の重要性に鑑み、必要な法律が存在する時の確実な執行ないし現場のニーズに合わせた規制緩和や権限委譲が、他方で、法律が存在しない時は速やかに法の制定が行われるように、裏付けとなる憲法の中に明確な根拠規定を定めておくべきことが、それぞれ明らかとなった。
 そこで改めて本フォーラムは、現行法では及ばない事態に備えて、内閣による「緊急事態の宣言」を憲法に規定し、これに基づき関連する法律が「平時」から「緊急時」のルールへと転換できるようにすべきこと、また、国会が召集できず新たな法律の制定や予算を議決できないような事態においては緊急政令や緊急財政支出が可能となる制度を憲法上整備しておくことを提言する。

 

 

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